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機械力学 基礎

自由振動と固有振動数:「共振」が怖い理由を数式と実例で理解する

2026年3月27日

#機械力学 #基礎 #振動 #固有振動数 #共振 #減衰

「共振で機械が壊れた」という話を聞いたことはないでしょうか。 橋が風で崩落する、モータの回転数がある値を超えると急に振幅が大きくなる、試作品が特定の周波数で異音を発する——これらはすべて共振が関係しています。

共振は「微小な外部入力を、構造物を破壊するほどの力に増幅する装置」として機能します。その理解の出発点が固有振動数です。

この記事では、1自由度系の運動方程式から固有振動数を丁寧に導出し、減衰比・共振回避の設計指針・実際の破壊事例まで、設計者が「共振を制御できる」レベルになることを目標とします。


実構造物をモデル化する

「ばね-質量系」はどこに対応するか

複雑な実構造物も、特定の周波数帯域では質量(m)とばね(k)の組み合わせとして近似できます。これが1自由度(SDOF)モデルの考え方です。

実構造物の例質量 mm に対応するものばね定数 kk に対応するもの
モータ架台モータ・回転体の全質量鋼製フレームの曲げ・圧縮剛性
防振支持された精密機器機器本体・定盤の質量防振ゴム・空気ばねの弾性係数
片持ち梁状センサブラケット先端のセンサ質量ブラケットの曲げ剛性
建築構造物の床積載荷重+スラブ質量梁・床板の曲げ剛性

この対応関係を頭に入れておくと、「どこを変えると固有振動数がどう動くか」が直感的に分かるようになります。


運動方程式と固有振動数の導出

モデルの設定

質量 mm のブロックが、ばね定数 kk のばねで天井につながれています。摩擦・空気抵抗はいったん無視(減衰なし)。

  ///天井///
     |
  [ばね k]
     |
  [質量 m]
     ↕ x(変位、下向き正)

運動方程式を立てる

ニュートンの第2法則 F=maF = ma を適用します。質量 mm に作用する力はばねの復元力 kx-kx のみです。

mx¨=kxx¨+kmx=0m\ddot{x} = -kx \quad \Longrightarrow \quad \ddot{x} + \frac{k}{m}x = 0

固有角振動数の導出

x(t)=Acos(ωt+ϕ)x(t) = A\cos(\omega t + \phi) を仮定して代入すると:

ω2x+kmx=0ω2=km-\omega^2 x + \frac{k}{m}x = 0 \quad \Longrightarrow \quad \omega^2 = \frac{k}{m} ωn=km[rad/s]\boxed{\omega_n = \sqrt{\frac{k}{m}} \quad \text{[rad/s]}}

Hz(毎秒の振動回数)と固有周期に換算すると:

fn=12πkm[Hz]Tn=1fn=2πmk[s]\boxed{f_n = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{m}} \quad \text{[Hz]}} \qquad T_n = \frac{1}{f_n} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \quad \text{[s]}

下のアニメーションで、kkmm を変えながら振動の「速さ」が変わる様子を体感してください。

10 kg

固有角振動数 ωn = 10.00 rad/s

固有振動数 fn = 1.59 Hz

固有周期 Tn = 0.6283 s


数値で感覚を掴む

計算例

m=10kgm = 10 \, \text{kg}k=1000N/mk = 1000 \, \text{N/m} のとき:

fn=12π100010=102π1.59Hzf_n = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{1000}{10}} = \frac{10}{2\pi} \approx 1.59 \, \text{Hz}

固有振動数を変える4つの手段

fnkmf_n \propto \sqrt{\frac{k}{m}}
対策fnf_n の変化実務での適用例注意点
kk を大きくする上昇リブ追加、板厚増加リブ追加で mm も増える。比率変化に注意
kk を小さくする低下防振マウント挿入r>1.4r > 1.4 の防振域を狙う(後述)
mm を大きくする低下制振マス追加構造重量が増える
mm を小さくする上昇材料変更、肉抜きアルミ化で kk も下がる場合あり

重要な落とし穴:「リブを追加して剛性を上げれば固有振動数が上がる」は正しいですが、リブを追加すると質量 mm も同時に増えます。kkmm が同じ比率で増えると fnf_n は変わりません。変更前後の k/mk/m の比を必ず確認してください。

下の計算ツールに値を入力して、固有振動数とモータ回転数の「危険な近さ」を確認してみましょう。

固有振動数計算ツール

固有角振動数

ωn = 10.00

rad/s

固有振動数

fn = 1.59

Hz

固有周期

Tn = 0.6283

s

計算式:ωn = √(k/m) fn = ωn/(2π) Tn = 1/fn


減衰と減衰比 ζ\zeta

現実の系には必ず「エネルギーを散逸させる機構」が存在します。これが減衰です。

粘性減衰モデルと運動方程式

速度に比例する抵抗力 cx˙c\dot{x}(粘性減衰)を加えると:

mx¨+cx˙+kx=0m\ddot{x} + c\dot{x} + kx = 0

臨界減衰係数 cc=2mkc_c = 2\sqrt{mk} で無次元化した減衰比 ζ\zeta(ゼータ)

ζ=ccc=c2mk\zeta = \frac{c}{c_c} = \frac{c}{2\sqrt{mk}}
状態減衰比 ζ\zeta挙動
不足減衰0<ζ<10 < \zeta < 1振動しながら指数的に減衰(ほぼ全ての機械構造)
臨界減衰ζ=1\zeta = 1振動せず最速で平衡位置へ戻る
過減衰ζ>1\zeta > 1振動せずゆっくり戻る(ダンパ設計の目標になることも)

減衰はどこで発生しているか

「減衰を増やす」対策を立てるためには、発生源を知る必要があります。

材料減衰(内部減衰):材料内部の微視的な結晶粒界摩擦によるもの。鋼では非常に小さく、ゴムや高分子材料では大きい。

構造減衰(摩擦減衰):ボルト締結部・リベット接合面でのミクロスリップ(微小滑り)による摩擦熱。溶接構造よりボルト構造の方が減衰が大きい理由はここにあります。

流体減衰:周囲の流体(空気・油・水)からの粘性抵抗。水中構造物では「付加質量効果」も加わり、空気中より固有振動数が大幅に低下します(後述)。

構造・材料別の減衰比の目安

設計初期段階で具体的な計測値がない場合、以下を基準として動倍率を予測します。

構造・材料推定減衰比 ζ\zeta共振時の想定動倍率
高強度鋼ばね(単体)0.001〜0.005100〜500倍
溶接鋼構造物(機械架台等)0.01〜0.0225〜50倍
ボルト締結構造物0.03〜0.077〜15倍
補強コンクリート基礎0.02〜0.0510〜25倍
防振ゴム(NR・シリコン)0.05〜0.153〜10倍

溶接鋼構造の機械架台で ζ=0.02\zeta = 0.02 とすると、共振時の振幅は静的変形の25〜50倍。「静的には全く問題のない荷重なのに振動で壊れた」という事故の多くはここに原因があります。

減衰比 → 共振時の動倍率

溶接鋼構造物(機械架台等)

減衰比 ζ = 0.010.02(中央値 0.0150

共振時 H ≈ 25.050.0

H = 1/(2ζ) 静的変形の 25.050.0 倍の振幅が発生しうる


強制振動と共振:動倍率の脅威

外部から周期的な力 F0sin(ωt)F_0\sin(\omega t) が作用する場合の定常振幅は、静的変形 xst=F0/kx_{st} = F_0/k に対して動倍率 HH 倍になります。

H=1(1r2)2+(2ζr)2H = \frac{1}{\sqrt{(1-r^2)^2 + (2\zeta r)^2}}

ここで r=ω/ωnr = \omega/\omega_n周波数比(加振周波数 / 固有振動数)。

r=1r = 1(加振周波数 = 固有振動数)で共振が発生し、共振時の動倍率は:

Hres12ζH_{\text{res}} \approx \frac{1}{2\zeta}

スライダーを動かして、減衰比が変わると共振ピークがどれほど劇的に変化するか体感してください。

周波数応答(動倍率曲線)

ピーク:r ≈ 0.99 で動倍率 ≈ 5.0

H(r, ζ) = 1 / √((1 − r²)² + (2ζr)²)


共振回避の設計指針:0.7–1.4ルール

共振トラブルを未然に防ぐ実務的なガイドラインとして、周波数比 rr を以下の範囲外に保つことが標準的に推奨されています。

動倍率 H

   |          /\  ← 共振ピーク(ここに入れない)
   |         /    \
 1 |--------/------\--------
   |       /  危険域 \      \
   |------/  0.7〜1.4 \------\--- r
   0     0.7           1.4    √2
        ↑剛設計の限界  ↑防振域の始まり

剛設計(避振):r<0.7r < 0.7

加振周波数より固有振動数を十分高く設定する戦略。fn>1.4×fextf_n > 1.4 \times f_{\text{ext}} が目安。

リブ追加・板厚増加・固定拘束の強化によって剛性を上げます。精密工作機械の主軸・工具ホルダの設計思想がこれに当たります。

柔設計(防振):r>1.4r > 1.4

加振周波数より固有振動数を十分低く設定する戦略。fn<0.7×fextf_n < 0.7 \times f_{\text{ext}} が目安。

r>21.41r > \sqrt{2} \approx 1.41 の「防振域」では力の伝達率が1を下回り、振動遮断が有効になります。防振マウントの設計がこれに当たります。

設計の鉄則0.7<r<1.40.7 < r < 1.4 の「増幅域」に加振周波数が入る設計は避ける。やむを得ず通過する場合(起動・停止時の回転数上昇など)は、その領域を高速で通過できるよう加速時間を設計します。


固有振動数の求め方

1. 1自由度近似(机上計算)

設計初期の素早い確認に。本記事の式をそのまま使います。

2. 連続体の公式(梁・板)

実際の構造物は「連続体」として無限の固有モードを持ちます。梁の nn 次固有角振動数は:

ωn=(λnL)2L2EIρA\omega_n = \frac{(\lambda_n L)^2}{L^2}\sqrt{\frac{EI}{\rho A}}

境界条件による係数 λnL\lambda_n L

境界条件1次モード2次モード3次モード
片持ち梁(固定-自由)1.8754.6947.855
単純支持(ピン-ピン)3.142(π\pi6.283(2π2\pi9.425(3π3\pi
両端固定4.7307.85310.996

支持条件の重要性:同一形状の梁でも、両端固定は片持ち梁の約 2.5262.5^2 \approx 6 倍の固有振動数を持ちます。「支持を固くする(固定化する)」は固有振動数を上げる最も効果的な手段の一つです。

3. FEM固有値解析

SolidWorks Simulation・ANSYS 等で「周波数解析」を実行。複雑な形状・境界条件に対応。結果はモード形状(どの部分が大きく動くか)とともに確認します。

4. 実験的モード解析(ハンマリング試験)

試作品をハンマで叩き、加速度センサで応答を取得してFFT解析。現場での最終確認手段として有効です。

インパクトハンマ法とシェーカー(振動試験機)法の使い分け:

手法向いているケース注意点
インパクトハンマ現場・試作品の素早い確認大型構造物には加振エネルギー不足。「二度打ち」に注意
シェーカー精密な減衰比計測、大型構造物セットアップに手間。シェーカー自体の質量負荷に注意

共振が実際に壊した事例

理論だけでなく、現場での共振破壊を「どこで起きたか」「なぜ見落とされたか」の視点で見ておきます。

事例①:発電所 FD ファンの翼疲労破壊

可変ピッチ軸流ファンの翼が、運転開始からわずか100時間で全損した事故。

原因:翼の固有振動数が、回転速度の整数倍(高調波)と一致。共振による高サイクル疲労が翼の付け根で急速に進展した。

教訓:回転機械の翼設計では、常用回転数との共振回避だけでは不十分。2倍・3倍の高調波や、翼通過周波数(BPF)との干渉をキャンベル線図で確認する必要があります。

事例②:フランシス水車インペラの亀裂(運転開始1日で多数発生)

原因:水中の付加質量効果により、空気中で計算した固有振動数より大幅に低下。それがランナーと案内羽根の干渉周波数(RSI)とぴったり一致した。

教訓:水中・油中で動作する部品は、空気中の計算結果は使えない。流体付加質量を考慮した解析(FEA + 流体構造連成)が必須です。

事例③:送電線による軸ねじり共振(モハベ発電所、1971年)

原因:長距離送電線の静電容量を補償するコンデンサが電気的な固有周波数を持ち、タービン・発電機軸の「ねじり固有振動数」と結合。正のフィードバック(不安定化)が発生して軸が破断した。

教訓:大型回転機械では、機械的振動だけでなく電気回路の共振との相互作用まで含めた統合解析が必要な場合があります。


振動トラブルを未然に防ぐチェックリスト

新しい機械・構造物を設計したら、以下を必ず確認します。

□ 加振源をすべてリストアップしたか?
  → モータ回転数、極数、羽根枚数、往復動回数、歯車噛み合い周波数

□ 1自由度近似で固有振動数を概算したか?
  → f_n = (1/2π)√(k/m)

□ 周波数比 r = f_ext / f_n が 0.7〜1.4 の危険域に入っていないか?
  → 入っている場合は剛設計か柔設計に寄せる

□ 支持条件の「固定」は本当に固定か?
  → 柔軟なベースプレートに載っていると f_n が大幅に低下する

□ 水中・油中動作部品は付加質量を考慮したか?
  → 空気中の計算値から 30〜50% 以上低下することがある

□ 減衰比の見積もりは構造形式に合っているか?
  → 溶接鋼 0.01〜0.02、ボルト締結 0.03〜0.07

まとめ

項目内容
固有角振動数ωn=k/m\omega_n = \sqrt{k/m}(rad/s)
固有振動数fn=12πk/mf_n = \frac{1}{2\pi}\sqrt{k/m}(Hz)
共振時の動倍率Hres1/(2ζ)H_{\text{res}} \approx 1/(2\zeta)
溶接鋼架台の減衰比目安ζ=0.010.02\zeta = 0.01〜0.02(共振で25〜50倍)
共振回避の設計基準r<0.7r < 0.7(剛設計)または r>1.4r > 1.4(柔設計)
リブ追加の落とし穴kk↑ と同時に mm↑ → 比率変化を確認

次のステップ


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